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ジビエでつなぐ、命と地域。東米良の若き狩猟家・石川翔が挑む『山の循環』の物語

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こんにちは、みやびとの橋口です。

Vol.002は、東米良で林業を営みながら、ジビエの狩猟・加工・販売を行う
石川翔さんを取材させていただきました。

まだ20代という若さで、地域のために試行錯誤を続ける姿に心を動かされました。

宮崎県 西都市 東米良(ひがしめら)。
林業と狩猟、二つの仕事を通して”山の命”と向き合う石川さんは、
認定NPO法人「東米良創生会」の一員として、獣害を資源へと変える取り組みに挑んでいます。

その挑戦の先に見えるのは、ジビエで地域を再生させようとする「山の循環」の物語です。

目次

  1. 山に育てられた少年。自然と生きることが”あたりまえ”だった日々
  2. 林業の現場で感じた”命の重さ”と、仕事のリアル
  3. 東米良創生会との出会い。地域に”循環”を取り戻す挑戦
  4. 鹿やイノシシを”厄介者”で終わらせない。ジビエというもう一つの山仕事
  5. 捕獲から2時間以内の処理。 “臭みのない肉”を生む現場の工夫
  6. 星空の下で食べるジビエ。キャンプと食でつながる東米良の魅力
  7. まだ途中の物語。東米良から始まる次の挑戦
  8. おわりに

販売店舗・SNSなどの紹介

石川さんのことを書く前に、少しだけ店舗やSNSなどの紹介になります。

めらんジビエ:東米良無人商店めらんストア:2025年1月にオープン。
219号線を西都から西米良へ向かう道中、
銀鏡方面への向かう道路との曲がり角に黒く塗装されたコンテナ型の店舗があります。
オレンジと白の幟旗が目印。

めらんストアの外観めらんストアの入り口

マップ(東米良無人商店めらんストア)https://maps.app.goo.gl/vVChQaehmAW2djnt7
めらんジビエInstagramhttps://www.instagram.com/meran.gibier/
石川林業 めらんジビエページhttps://shiromiforest.com/meranzibie

店内に入るには公式LINEから、登録を行うことでキーが発行され解錠できる仕組み。
LINE内にECサイトもあります。

公式LINEhttps://line.me/R/ti/p/@103mkczt

めらんジビエを含む東米良の様々な事業が紹介されています。
認定NPO法人東米良創生会公式HPhttps://higasimerasouseikai.com/

1. 山に育てられた少年。自然と生きることが”あたりまえ”だった日々

Hashiguchi「石川さんは、生まれも育ちもこの地域なんですか?」

Ishikawa「出身は妻(地域名)なんですが、父の実家が銀鏡(しろみ)で、
おばあちゃんちに連れて行ってもらって、魚釣ったり川で遊んだり。
そういう自然の中で育ってきた感じです。」

Hashiguchi「もう小さいころから、山とか川が生活の一部みたいな感じだったんですね。」

Ishikawa「そうですね。他の友達がゲームとかしてる時に自分は山や川で遊んでました。
あとはイノシシ狩りに連れて行ってもらったりとか、
そういう環境の中で、英才教育を受けてきました(笑)。」

Hashiguchi「確かに英才教育ですね(笑)。」

Ishikawa「ですね。小学生の頃から親について行って、巻狩り(まきがり)※に参加してました。
獲物を追う側(勢子[せこ])と待ち伏せする側(待ち)と分かれるんです。
私は当時まだ小さかったので待ちの方にいて、
勢子が追いたてたイノシシが「ブッブッブッ」と言いながら狙ってた獣道から出てきた時にバーンって。
その日取れた獲物を囲んでBBQをしながら、
「今回は猟犬との連携がうまくいった」とか
「もう少し囲うタイミングを早くせんと逃げられる」とか
語る場所が日常にあったので、猟が本当に身近なものでした。」

※猟犬を使って獲物を四方から囲い、徐々に追い詰めて仕留める大規模な狩猟方法

林業の現場での作業風景

取材の途中、ユーモアを交えながらも自然の中で少年時代を過ごしてきたことを聞いていると、
小さい頃から狩猟と近い距離で過ごしていたことに強烈に惹きつけられました。

自分にとっての非日常を日常的に経験されてる方との会話はいつどんな時でも好奇心を掻き立てられます。

2. 林業の現場で感じた”命の重さ”と、仕事のリアル

Hashiguchi「高校を出てすぐ林業の道に進まれたんですか?」

Ishikawa「そうですね。でも、学生の時は車とか好きだったので、
整備士とかそっち系に進もうと思ってました。
色々考えてる中で、車をいじるのは趣味としてやりたいって気持ちになって。
趣味ってお金かかるじゃないですか。
なので、早くお金稼ぎたいってなって(笑)。
父が家業としてやってるのでそのまま山師(林業従事者)になりました。」

Hashiguchi「めっちゃ素直ですね(笑)。
現場に入ってみて、実際にどうでしたか?」

Ishikawa「想像してたよりずっと危険な仕事ですね。
本当に簡単に人が亡くなることを体感してます。
林業って全業種の中で死亡事故が一番多い業種なんですよ。
千人率(死傷年千人率)※というものがあって、
1年間の労働者1,000人あたりに発生した労働災害による死傷者数の割合なんですが、
2位と差が圧倒的に開いて林業が1位なんです。」

※年千人率は、1年間の労働者1,000人あたりに発生した死傷者数の割合を示すもの。

労働災害の発生率

全産業2022年
全産業2.3
林業23.5
鉱業9.9
建設業4.5
製造業2.7
木材・木製品製造業12.3

出典:厚生労働省/労働者死傷病報告および総務省労働力調査

Hashiguchi「えっ!そうなんですか?それは怖いですね…」

Ishikawa「ほんとに怖いですね。木の直径が15センチくらいあれば本当に命を落としかねないです。
ここ数年でも周りで知り合いの方が数人事故で亡くなってますね。
あとはここ2ヶ月、宮崎県内で5件の死亡災害が起きたりと、毎日が緊張感の連続です。
実際に現場で働いてて危険を感じる瞬間は何度もあります。」


様々な業種の中で一番死と近い仕事を生業としている石川さんの言葉には、山師の”現実”がにじんでいた。自然の中で働くという響きの裏に、常に命の危険と隣り合わせの世界があった。

3. 東米良創生会との出会い。地域に”循環”を取り戻す挑戦

Hashiguchi「根本的なところなんですが、どんなきっかけでジビエの販売をすることになったんですか?」

Ishikawa「父が東米良創生会という村おこし事業をしているNPO法人に関わっていて。
林業をやってて猟友会の支部長もしてたので、石川さんのところしかないだろうって話になって。
地域おこしの一環で、『1000年続く村』というのをキャッチフレーズにして、
もう衰退の一途を辿るじゃないけど、少子高齢化の波がある中でジビエの無人販売を取り入れて
東米良を盛り上げようってところから始まりましたね。」

Hashiguchi「地域おこしの一環で始まったんですね。」

Ishikawa「そうですね。それと農林水産省がやってる農村RMO形成推進事業※
という事業の一つでもあって、国の事業を活用し、処理加工施設や無人販売所ができてます。」

※複数の集落の機能を補完して、農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せて、
生活支援等地域コミュニティの維持に資する取組を行う組織


国が絡む大きなプロジェクトの中で東米良の地域おこしのために生まれた”ジビエ事業”。
単なる副業ではなく、地域を守り、山も守る。まさにここから循環しはじめようとしていた。

東米良に育てられた少年が、次は東米良を背負って盛り上げようとしている。

4. 鹿やイノシシを”厄介者”で終わらせない。ジビエというもう一つの山仕事

Hashiguchi「ジビエって実は私も興味がありまして。
色々調べたりはいるんですが、害獣駆除として尻尾切って役場に持っていくと
駆除の報酬が出るんですよね?」

Ishikawa「そうですね。駆除して尻尾を切って写真を撮って、報酬もらって、昔はここまででした。
肉を食べずに、お金だけもらって捨てる。
お金の効率を考えると確かにその場で処理(埋設処理)した方がいいかもしれません。
山から40kg、50kgとかある肉の塊を1頭ずつ降ろさないといけないので。
でも、せっかく命をいただくなら、ちゃんと活かしたいと思って。」

Hashiguchi「『めらんジビエ』の直売所もその流れから?」

Ishikawa「そうです。狩猟・加工・販売まで全部ここでやってます。
そして支払いは完全キャッシュレスで盗難防止に配慮した無人販売所です。
ジビエの他にも日用品やお米・お弁当とかも販売してます。
地域の人にも買ってもらいやすくしてます。」

めらんストア内の購入手順めらんストア内の購入手順その2めらんストアの商品陳列1めらんストアの商品陳列2めらんストアの商品陳列3めらんストアの商品陳列3

イノシシ肉や鹿肉のパッケージが並ぶ冷凍庫。
ここまで加工するためにどんな苦労があるのかをリアルに聞くことで、
改めてどれだけの手間がかかっているのかを考えさせられた。

害獣と言うのは人のエゴであり、本来は山の恵みとして尊い存在であるはず。
山の恵みを「捨てる」から「いただく」へ。石川さんの取り組みは、地域の価値観を変えつつある。

5. 捕獲から2時間以内の処理。 “臭みのない肉”を生む現場の工夫

Hashiguchi「ジビエって、昔は”獣臭い”ってイメージがありましたよね。
今もそういう固定観念を持ってる方もいるかと思うんですが。」

Ishikawa「あれは昔の処理の仕方が原因なんです。
昔は朝から山に入って、降りてくるのは夕方とか。
獲ってから何時間も経ってるので、どうしても肉に血が巡ったままになったりと
処理方法が全然大雑把だったので、それを食べた時に血生臭かったりしてたんですよね。」

Hashiguchi「なるほど、処理の仕方が問題だったんですね。」

Ishikawa「そうです。今は止め刺し※した後、2時間以内に処理します。
あとは犬でイノシシを追いかけるとストレスで肉質が悪くなるんですよ。
だから罠猟にして、追いかけるよりもストレスが掛からないようにするんです。
一番良いのは銃で首から上を狙って仕留めた獲物で、一番ストレスが掛からないですね。」

※心臓や頸動脈を刺す、または電気や他の機材を使って、速やかに絶命させる作業のこと

加工施設で肉を解体する様子

Hashiguchi「2時間以内って決まりがあるんですね。」

Ishikawa「はい。特に販売する商品には法律があって、厳格に決められてますね。
時間の制約以外にも、獲物の状態によっても決まりがあって、
首から下、特に内臓とかに被弾した獲物は受け入れは拒否するんです。
内臓の雑菌内容物が肉についた時点でその肉の加工・販売ができなくなります。」

狩猟現場での止め刺しの様子

Hashiguchi「めちゃくちゃ厳しいですね。」

Ishikawa「そうなんです。
それと、肉の保存方法と時間の経過によって肉の成分が良くも悪くも変わるので、
うちは熟成期間もきっちり管理して、3〜5日かけて仕上げます。
熟成することによって肉に含まれる酵素の働きによって、
タンパク質がアミノ酸などの旨味成分に分解されるため、
臭みがなくて、柔らかい美味い肉になります。
マルシェやお祭りとかで出して、実際に小学生くらいの子供が食べてくれた時に
『美味しい』って言ってくれるのがうれしいです。」

加工された精肉

加工場も見学させていただいた。処理の導線も考えられたコンパクトでスピーディに作業ができるように設計されており、衛生面も考慮して、加工時に着る作業服や地面などに肉が触れないようにフックがあったりと考え抜かれた設備が並んでいた。

実際の加工の現場にも立ち会ってみたい。

めらんストア内の購入手順めらんストア内の購入手順その2めらんストアの商品陳列1めらんストアの商品陳列2

6. 星空の下で食べるジビエ。キャンプと食でつながる東米良の魅力

Hashiguchi「ジビエの商品は無人販所の他にどこかで売ってたりするんですか?」

Ishikawa「尾八重高原星空キャンプ場※にも卸してます。
キャンプ場の管理棟にて販売しています。
何にも空を遮るものがない場所で、夜の満点の星空も最高に綺麗です。
その星空の下で焚き火して、BBQ。最高ですよ。
そして、そこには尾八重高原星降るサウナもあるので、
サウナで火照った体を簡易プールで冷やしてベンチで寝る。
めっちゃ整う※感覚を感じながら、目を開けると満天の星…
思い出すだけで鳥肌立ちます。」

※サウナ、水風呂、休憩を繰り返す温冷交代浴の後に訪れる、
心身が深いリラックス状態になり、頭がクリアで爽快な感覚に包まれる状態

Hashiguchi「やばい…想像しただけでも最高ですね。」

Ishikawa「女性や家族でも安心して来れるようにトイレやお風呂も整ってます。
キャンプ場も含め、ここには”つながる要素”がそろってるんですよ。
焚き火でジビエを焼いたり、横ではゆずの香りがして、
原木しいたけもあって、自然の中で全部がひとつになる。
ジビエとキャンプのように、そこに地域の食材や風景が重なって、
東米良にしかない時間が生まれるんです。」


夜の山を包む静けさの中、火の粉が舞う。星空の下で食べるジビエの味は格別だという。観光と食がつながり、山の恵みが地域を結び直している。東米良のモノと想いが”循環する場所”になっている。

7. まだ途中の物語。東米良から始まる次の挑戦

Hashiguchi「これからの構想も聞かせてください。」

Ishikawa「最終的に目指してるのが東米良の発展。地域創生になります。
この建物の上に、カフェをつくりたいんです。
ダムが一望できるようにして、桜とか紅葉の木を植えて、四季が見える場所にしたいなと考えてます。
あと、地域の中継地点みたいな場所にもできたらと思ってます。
近い未来、ドローン配送とかできたり、防災の拠点にもなればいいなと。
過疎地SS(簡易ガソリンスタンド)をつくるのも目標なんですよ。」

東米良のダムの景色

Hashiguchi「すごい。まさに”地域をつなぐ”場所ですね。」

Ishikawa「でも、まだまだ課題は山積みです。ジビエ事業を軌道に乗せるために、色々とやることがありますね。」

Hashiguchi「例えばどんなことが課題ですか?」

Ishikawa「今後、商品開発をしていくので、パッケージデザインとか必要ですし、
そういうことができるデザイナーさんと繋がりたいです。あと、ロゴもちゃんと作りたいですね。
まだ全て自分がやってるので、プロの力を借りていきたいです。
まだ途中ですけど、今あることを一つずつ形にしていきたいです。」

Hashiguchi「なるほどですね。事業を大きくするにはプロの力を借りるのは必要ですね。」

Ishikawa「そうですね。あとは自分自身もまだまだ勉強不足です。
本当に山の中で育ってきたので、もちろん良い面もたくさんあったんですが、
社会人としての常識とか営業の仕方とか、ビジネスの知識とか勉強しないとなって。」


さまざまな課題を感じながらも、目の前のことに集中し、着実に1歩1歩前に進もうとしている。山も、地域も、命も、すべてが”循環”の途中にある。彼の物語もまた、ここから続いていく。

8. おわりに

幼い頃から山や川を遊び場にして育ち、林業の現場で”命と向き合う”仕事に携わり、
今はジビエを通して”命をつなぐ”挑戦を続ける石川さん。

危険と隣り合わせの現場で培われた覚悟、
そして「山の恵みを丁寧にいただく」というジビエ事業への想い。

そこには、幼少期から自然と共に生きてきたからこそ積み上がる地域への想いもありました。

地域の未来をつくるのは、特別な誰かではなく、
自分の足で立ち、目の前の現実に挑み続ける人。
そんな姿に、心を動かされずにはいられません。

東米良という山あいの小さな地域から、
“循環する未来”を描く若き挑戦者の物語は、
まだ途中です。

ジビエ、林業、地域創生。
その一つひとつが東米良の新しい価値となり、
やがて大きな輪を描いていくことでしょう。

これからも、石川翔さんの挑戦を応援していきます。

そして、「みやびと」もまた、
こうした一人ひとりの挑戦の物語を通して、
宮崎の新しい未来を紡いでいきます。

石川さんの作業場での姿

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